はじめに
離婚の際に財産分与を考えるとき、「実家への仕送り」や「義両親への送金」が思わぬ争点となることがあります。
具体的には、「夫婦の共有財産から、夫婦どちらかの親に対して継続的に送金があった場合、これは財産分与で持ち戻しの対象になるのか?」という問題があります。
このコラムでは、親への送金が財産分与にどう影響するのか、その判断基準や注意点を分かりやすく解説します。
「送金=共有財産の逸失」とは限らない
一般的に、夫婦が婚姻期間中に築いた財産は「夫婦の共有財産」として、離婚時に公平に分け合うのが原則です。
そのため、婚姻中に一方の親(実家)に送金されていた場合、それが「共有財産の逸失(不当な支出)」として、送金した額を財産分与の対象に含める=財産分与で持ち戻すことも考えられます。
しかし、親子間には法律上「扶養をする義務」(民法877条1項)が存在します。
つまり、親が経済的に困窮している場合にその子が一定の支援を行うこと自体は、正当な行為といえます。
また、夫婦同意の上で、親への送金を行っていたのであれば、それを離婚のときになって持ち戻すというのは公平性に欠けるといえます。
このため、親への送金がただちに不当な支出と判断されるわけではなく、扶養の範囲内であったり、そもそも夫婦で同意した上でのことであるなど、正当な行為といえる事情があれば、財産分与で持ち戻しの対象にはならないといえます。
扶養の範囲内かどうかの判断基準は?
裁判所は、親への送金が扶養の範囲内であるかどうかを判断する際、以下のような事情を慎重に見極めながら判断します。
ポイント①:送金の目的は「扶養」か「財産隠し」か
重要なのは、送金の「目的」です。
もし、送金の目的が親の生活を支えるための扶養ではなく、夫婦の財産を隠匿することにある場合、扶養の範囲を超えた不当な支出と判断される可能性が高まります。
扶養目的かどうかの判断にあたっては、両親の実際の生活状況(収入、資産、生活費など)や、疾病の有無、介護の必要性などが考慮されると考えられます。
ポイント②:送金額が夫婦財産に比して妥当か
送金の「金額」も重要です。
確定している夫婦共有財産に比して、争いとなる送金額があまりにも多い場合は、そのような送金は両親への扶養として妥当な範囲を超えていると判断される可能性が高くなります。
夫婦の生活水準や経済状況に見合わない過度な送金は、不当な財産減少とみなされるリスクがあります。
まとめ:親への送金が問題になるかどうかは「目的」と「バランス」が鍵
義両親への送金が、財産分与において問題となるか否かは、以下の要素を総合的に判断して決まります。
• 送金の「目的」が扶養的であるか
•送金の「金額」が夫婦全体の財産規模に照らして過大でないか
一見、家庭内の個人的なやり取りに思える「親への送金」も、離婚時には夫婦の共有財産を不当に減少させたのではないか」という観点から、大きな論点となる可能性があります。
将来的なトラブルを避けるためにも、日頃から送金の目的や金額に関する記録を適切に管理しておくこと、そして可能であれば夫婦間で合意形成を図っておくことが重要です。ご自身のケースで不安を感じた場合は、弁護士に相談し、具体的なアドバイスを受けることを強くお勧めします。