入社して数週間から数ヶ月、ようやく仕事に慣れてきた頃に突然告げられる「本採用拒否(試用期間切り)」。
会社側は「試用期間中だから自由に辞めさせられる」、労働者側も「期待に応えられなかったら仕方ない」と誤解しているケースが少なくありません。
しかし、結論から言えば、試用期間中であっても、会社側が自由に従業員を解雇できるわけではありません。 本採用の拒否は法律上「解雇」と同等に扱われ、通常の解雇と同様に厳しい要件が課されています。
本記事では、最新の裁判例を交え、試用期間中の解雇が認められるための法的要件や、見落とされがちな待遇面(社会保険・有給など)のルールについて詳しく解説します。
1. 試用期間中の解雇も「客観的な合理性」が必要
経営者の中には「試用期間はお試し期間だから、合わなければ即座に契約終了できる」と誤解している方もいますが、法的な解釈は異なります。
解約権留保付労働契約とは
試用期間は法律上、「解約権留保付労働契約」と解釈されます(最高裁昭和48年12月12日判決・三菱樹脂事件)。
これは、「会社が後で契約を解除する権利を留保しているものの、すでに労働契約は成立している」という状態を指します。
そのため、解雇(本採用拒否)を行うには以下の労働契約法第16条を満たす必要があります。
労働契約法 第16条(解雇)
解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。
試用期間中は通常の従業員よりも解雇の範囲が「やや広く」認められる傾向にありますが、それでも「なんとなく社風に合わない」「一度ミスをした」程度の理由では、解雇権の濫用(不当解雇)とみなされます。
2. 裁判例から見る「本採用拒否」の有効性
実際に、試用期間中の解雇が裁判でどのように判断されるのか、代表的な3つの事例を見てみましょう。
事例①:数分の遅刻や服装を理由とした解雇(東京地裁令和7年6月30日判決)
ゲーム開発会社に年収約1300万円で採用されたエンジニアが、入社わずか2週間で「5回の遅刻」「短パンでの勤務」「能力不足」などを理由に解雇された事案です。
- 裁判所の判断: 解雇は 無効。
- 理由: 遅刻は数分程度で上司の了承があるものも含まれていました。服装も業務に支障がなく、事前の注意指導もなかったことが重視されました。また、高額給与に見合う能力があるかは、わずか2週間では判断できないとされました。
事例②:指導不足のまま「能力不足」とされたケース(東京地裁平成27年1月28日判決)
土木構造物の設計職として採用された社員が、図面のミスや納期の遅れを理由に本採用を拒否された事案です。
- 裁判所の判断: 解雇は 無効。
- 理由: 入社直後で具体的な指示がない状況でのミスを重く捉えすぎていること、また、指摘後に修正を完了させていたことから、基本的な能力が欠如しているとは認められないと判断されました。
事例③:改善傾向を確認せず即日解雇したケース(東京地裁平成27年9月30日判決)
医療法人の事務センターで、業務遂行能力や協調性の欠如を理由に即日解雇(本採用拒否)された事案です。
- 裁判所の判断: 解雇は 無効。
- 理由: 能力が水準に達していない面はあったものの、改善傾向の有無を十分に確認・観察しないまま直ちに解雇したのは「性急すぎる」として、客観的に相当でないと判断されました。
3. 試用期間中の「待遇」と「退職」の正しいルール
不当解雇の問題だけでなく、待遇についても会社側が違法な運用をしているケースが目立ちます。
社会保険の加入
条件を満たせば、入社初日から健康保険や厚生年金に加入させる義務があります。「試用期間が終わってから」という運用は違法です。
有給休暇のカウント
有給休暇発生の要件である「継続勤務6ヶ月」には、試用期間も含まれます(労働基準法第39条)。「本採用後から半年」ではなく、入社日からカウントされます。
自分から退職したい場合
会社が合わないと感じた場合、労働者側から退職を申し出ることも可能です。原則として2週間前の告知で退職できます(民法第627条)。
4. こんな理由は有効?試用期間解雇の判断目安
| 理由の項目 | 解雇が認められる可能性 | 備考 |
| 単純なミス | 低い | 教育・指導によって改善可能であれば無効とされる可能性が高い |
| 経歴詐称 | 高い | 採用の判断に直結する重要な嘘(資格、重大な前科等)がある場合 |
| 著しい勤怠不良 | 中〜高 | 無断欠勤が続く、再三の注意でも遅刻が直らない場合など |
| 社風に合わない | 低い | 具体的な業務への支障が証明されない限り認められにくい |
5. 即日解雇は可能?「解雇予告手当」のルール
入社して14日を超えて勤務している場合、会社が解雇するには以下のいずれかが必要です(労働基準法第20条)。
- 30日以上前の予告
- 30日分以上の解雇予告手当の支払い
15日目以降に「明日から来なくていい」と通告され、予告手当も支払われない場合は、手続き自体が違法です。
6. 本採用拒否を告げられた時にすべき3つの対策
- 解雇理由証明書の請求: 労働基準法第22条に基づき請求しましょう。会社が後から理由を捏造するのを防げます。
- 自己都合の退職届を書かない: 一度サインすると「合意退職」とみなされ、不当解雇を争うことが非常に困難になります。
- 交渉や面談の記録を残す: スマートフォン等での録音は、後の交渉で非常に強力な証拠になります。
7. 弁護士へ相談するメリット
- 不当解雇の撤回と復職交渉
- 解決金(数ヶ月分の賃金相当額)の獲得
- 未払賃金や解雇予告手当の請求
「まだ試用期間だから」と自分を責める必要はありません。会社側の主張に法的な正当性があるかどうか、労働法の専門家が冷静に判断いたします。
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