「指導」と「パワハラ」の境界線はどこ?裁判例から学ぶ、管理職が陥る「良かれと思った指導」の落とし穴と「正しい指導」の技術

大﨑美生弁護士による企業管理職向けハラスメント対策セミナー

先日、企業管理職の皆様を対象に、「指導と対話に潜む法的リスクと解決策」と題した法務セミナーを開催いたしました。

昨今、「ハラスメントと言われるのが怖くて部下を指導できない」という管理職の声や、「指導のつもりがトラブルに発展してしまった」という企業様からのご相談が急増しています。

今回のコラムでは、セミナーでお話しした「ハラスメントにならない指導の境界線」と、組織を守るために不可欠な「相談体制の構築」について、そのエッセンスをご紹介します。

目次

なぜ今、管理職の「指導力」が問われるのか

令和2年の労働施策総合推進法(パワハラ防止法)施行により、大企業・中小企業問わず、パワハラ防止措置が義務化されました。

さらに現在は、無意識の偏見による「マイクロアグレッション(小さな攻撃)」や、育児中であることを理由に重要な業務から外すといった配慮のつもりで行うマタハラなど、ハラスメントの概念も多様化・複雑化しています。

かつてのように「熱心に指導しただけ」「自分の若い頃は当たり前だった」という主観は、現代の裁判では通用しません。企業にとっても、ハラスメント認定は損害賠償などの経済的リスクだけでなく、社会的信用の失墜や人材流出という甚大なダメージをもたらします。

裁判例で見る「会社が勝つ指導」と「負ける指導」

セミナーのメインパートでは、令和7年3月13日に出された2つの対照的な判決(外為ファイネスト事件・あおぞら銀行事件)などを比較・解説しました。

どちらも「問題行動のある部下」への対応でしたが、裁判所の結論は真逆となりました。

会社が負けた事例(解雇無効)
敗因: プロセスの不備と感情的な対応。
部下の態度に感情的になり、注意指導や減給などの段階を踏まずに、いきなり「解雇」という重い処分を下してしまった点が「権利濫用」と判断されました。

会社が勝った事例(降格・隔離処分有効)
勝因: 事実の記録と段階的な措置。
感情的な応酬を避け、問題行動を詳細に「記録」しました。その上で、出勤停止→降格→配置転換と、丁寧なプロセスを積み重ねたことが評価されました。

【ここがポイント】
組織を守る鉄則は、「感情的にならないこと」「事実を記録すること」「適正な手順(プロセス)を踏むこと」の3点です。

感情的にならないための「DESC法」

とはいえ、現場では感情をコントロールするのが難しい場面もあります。そこでセミナーでは、実践スキルとして「DESC(デスク)法」をご紹介しました。

  • D (Describe): 客観的な事実のみを伝える
  • E (Express): 「私」を主語にして懸念を伝える
  • S (Specify): 具体的な解決策や命令を伝える
  • C (Consequence): その結果(メリット・デメリット)を伝える

例えば、指示に従わない部下に対して「やる気がないなら辞めろ(人格攻撃)」と言うのではなく、「期限を過ぎている(事実)」「これでは評価ができない(懸念)」「〇日までに提出しなさい(命令)」「出さない場合は降格の対象になる(結果)」と伝えることで、パワハラリスクを回避しながら毅然とした指導が可能になります。

ハラスメントリスクを未然に防ぐ「社外通報窓口」のご案内

近年、ハラスメント防止は単なる労務問題にとどまらず、企業の社会的責任(CSR)や「ビジネスと人権」の重要課題としても位置づけられています。

そのために欠かせないのが、万が一問題が起きた際の「安全な相談先」の確保です。

ハラスメント防止は企業の義務であり、相談窓口の設置や、事実確認・適正な措置が求められます。

当事務所では、企業のコンプライアンス強化と健全な職場づくりを支援する「社外通報・ハラスメント相談窓口サービス」を提供しています。

当事務所のサービスの特徴

  1. 絶対的な公平性
    企業から独立した弁護士が窓口となるため、従業員様は利害関係を気にせず安心して相談できます。
  2. 匿名性と利用しやすさ
    メールやフォームで24時間いつでも通報可能。匿名での相談も受け付けることで、潜在的なリスクの早期発見につなげます。
  3. ダイバーシティ視点
    女性弁護士ならではのきめ細やかな視点を取り入れ、女性活躍やダイバーシティ推進(DE&I)を重視する企業様にも最適です。

貴社の規模やニーズに合わせた最適なプランをご提案します。まずは現状の課題をお聞かせください。サービス詳細や費用については、資料をご請求いただけます。

【講師派遣】企業内セミナー・研修のご依頼も承ります

今回ご紹介したような「管理職向けハラスメント対策セミナー」を、貴社の社内研修として実施することも可能です。

  • 管理職・一般社員などの対象者に合わせた内容のカスタマイズ
  • 実際の事例を用いた実践的なワークショップ
  • 法改正に対応した最新のコンプライアンス研修

「ハラスメントが起きない土壌」を作るためには、正しい知識の共有が不可欠です。「社内で同じような研修をしてほしい」「管理職の意識を変えたい」とお考えの人事・教育ご担当者様は、ぜひお気軽にご相談ください。

従業員との労務トラブル・ハラスメント・不当解雇・残業代請求等労働トラブルに関するご相談は、労働問題に特化した弁護士にご相談ください
・完全予約制・プライバシー厳守
・文京区後楽園駅・春日駅すぐ/JR水道橋駅から乗り換え1本

【企業の方】従業員との労務トラブル・ハラスメントに関するご相談【労働者の方】
当事務所の労働問題サポート

当事務所では、不当解雇、残業代請求、パワハラ・セクハラ、退職勧奨など、働く人の権利を守るための労働問題全般を専門的にサポートしています。まずは詳細をご確認ください。

主な対応エリア

東京都文京区全域(小石川、春日、後楽園、本郷、白山、千石、茗荷谷、水道橋、音羽、関口、目白台など)

近隣の対応エリア

新宿区、千代田区、豊島区、台東区、中央区、港区、北区、荒川区、板橋区、練馬区など

利用可能な沿線

東京メトロ丸ノ内線・南北線、都営三田線・大江戸線、JR中央・総武線

アクセス便利な駅

後楽園駅、春日駅、水道橋駅、飯田橋駅、本郷三丁目駅、茗荷谷駅、池袋駅、大手町駅、巣鴨駅

※全国からオンライン相談も承っております
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