婚姻費用とは、夫婦が別居した場合に、生活費の分担を求めるものです。
婚姻費用の額は、夫婦の収入や資産、生活水準などを考慮して決められますが、特有財産からの賃料収入は婚姻費用算定の基礎となる収入に含まれるかどうかという問題は、裁判所によって判断が分かれることがあります。
今回は、この問題に関する2つの裁判例を紹介し、弁護士としての見解を述べたいと思います。
▶ 婚姻費用算定の考慮要素には「資産」も含まれる
婚姻費用分担義務の法的根拠は、民法760条にあります。
(婚姻費用の分担)第760条 夫婦は、その資産、収入その他一切の事情を考慮して、婚姻から生ずる費用を分担する。
このように、民法760条では、婚姻費用は、夫婦の「資産、収入その他一切の事情を考慮」すると規定していますので、特有財産となる資産も婚姻費用算定の考慮要素となりえます。
※これとは反対に、財産分与は夫婦が婚姻生活で協力して形成した財産を清算するものですので、特有財産は財産分与の対象から除外されます。
東京高裁昭和57年7月26日決定
この判例は、夫が数億円の財産を相続し、その一部を貸与して賃料収入を得ていた事案です。
夫婦の生活費は、夫の給与所得だけで、相続財産や賃料収入は充てられてはいませんでした。
このケースで妻が別居後に婚姻費用を請求した際、東京高裁は、夫の特有財産である不動産からの賃料収入を婚姻費用算定の際に考慮しないと判断しました。
このケースでは、夫婦の生活水準は、夫の給与所得によって決まっていたので、別居後も夫の給与所得だけを基準にすれば、妻は従前と同等の生活を保持できると判断したものと考えられます。
東京高裁昭和42年5月23日決定
この判例は、妻が特有財産である不動産から月3万円の賃料収入を得ていた事案です。このケースでは、妻の賃料収入が生活費に充てられていました。
東京高裁は、妻の特有財産からの賃料収入を婚姻費用算定の基礎に入れることは当然のことであると判断しました。
妻の特有財産からの収入は、夫婦の生活の一部として使われていたので、別居後も夫婦の収入の合計を基準にすれば、夫は従前と同等の生活を保持できると判断したものと考えられます。
▶ 弁護士としての見解
上記2つの高裁判例から考えると、特有財産の額や使い方によって、ケースバイケースの判断が必要となります。
賃料収入が生活費として使われていたといえるような場合などは婚姻費用等の算定基礎となる収入に含まれると考えられます。
婚姻費用は、婚姻期間中の生活費の分担であり、離婚時に夫婦が協力して形成した財産を清算する財産分与とは性格が異なります。
実質的な面をしっかりと考慮要素として主張することが重要となります。