離婚時の住宅ローン、どうなる?財産分与の注意点

離婚を考える際、持ち家があり住宅ローンが残っている場合、「財産分与はどうなるの?」と不安に感じる方は少なくありません。
住宅ローンは金額が大きく、財産分与の計算を複雑にする要因です。
ここでは、離婚時の住宅ローンと財産分与について、基本的な考え方と具体的な注意点をお伝えします。

目次

財産分与の対象となる財産とは?

財産分与とは、夫婦が婚姻期間中に協力して築き上げた財産を、離婚時に公平に分け合うことです。

現金、預貯金、株式、保険、不動産などが対象となります。

たとえ夫名義の財産であっても、妻の家事や育児による貢献も考慮されるため、原則として夫婦で2分の1ずつ分けるのが基本です。

一方、結婚前から個人が持っていた財産(特有財産)や、親から相続した財産は分与の対象にはなりません。

たとえば、結婚前に貯めていた預貯金で不動産の頭金を支払った場合、その頭金部分は特有財産として扱われることがあります。

住宅ローンは「債務」として考慮される

住宅ローンは、財産分与において「債務」として扱われます。一般的に、債務は分与の対象とはなりませんが、住宅ローンのように資産形成のために生じた債務は、財産分与の際に考慮されるのが通常です 。

この場合、プラスの財産(不動産)からマイナスの財産(住宅ローン残高)を差し引いて、分与の対象となる純粋な財産額を算出します 。

具体的な計算方法

【事例】

  • 不動産の購入代金:8,000万円
  • 不動産の評価額:1億円
  • ローン残高:5,000万円
  • 妻(X)が結婚前の預金から支払った頭金:500万円
  • 夫(Y)が支払った契約諸費用:50万円

まず、不動産購入代金(8,000万円)のうち、妻の特有財産(500万円)がどれくらいの割合を占めるかを計算します。このケースでは16分の1となり、残りの16分の15が夫婦で築いた「実質的な共有財産」と考えられます。

次に、不動産の評価額(1億円)をこの割合で按分します。

  • 妻の特有財産部分:1億円 × 1/16 = 625万円
  • 実質的共有財産部分:1億円 × 15/16 = 9,375万円

この実質的共有財産部分から、ローン残高(5,000万円)を差し引きます。

  • 9,375万円 – 5,000万円 = 4,375万円

この4,375万円が、夫婦で分与すべき財産となります。原則として2分の1ずつ分けるので、一人当たり2,187.5万円です。最終的な分与額は、妻の特有財産部分と分与分を合計して計算します。

  • 妻の取得分:625万円(特有財産) + 2,187.5万円(分与分) = 2,812.5万円

別居後に住宅ローンを支払っていたら?

別居後に夫婦の一方が住宅ローンを支払い続けていた場合、その支払いは特有財産からの支払とみなされるのが一般的です 。なぜなら、別居によって夫婦の協力関係は通常終了していると考えられるためです 。

したがって、離婚時の財産分与額の算出にあたっては、この別居後の支払い分を考慮する必要があります。主な考え方は2つあります。

  1. 別居時説:不動産の評価額から、別居時点のローン残高を控除して計算する方法 。
  2. 裁判時説:不動産の評価額から、分与時点(裁判時)のローン残高を控除して計算する方法 。

どちらの考え方を採用するかによって計算方法は異なりますが、最終的な結論は一致することが多いとされています

例えば、夫が別居後に住宅ローンを支払い続けた場合、夫の特有財産によって夫婦共有財産のローンが減少したことになります。このため、妻は夫の支払いによって利益を得ていると見なされ、その分を妻の取得分から差し引いて清算します

まとめ

離婚時の財産分与は、住宅ローンや個人の特有財産が絡むと、計算が非常に複雑になります。特に、不動産や住宅ローンに関する問題は、当事者だけでは解決が難しいケースも少なくありません。

弁護士は、法律と過去の判例に基づき、お客様一人ひとりの状況に合わせた最適な解決策をご提案します。離婚を検討中で、財産分与について不安を感じている方は、どうぞお気軽にご相談ください。

この記事を書いた人

東京弁護士会 
後楽園フィリア法律事務所
代表弁護士 大﨑美生

東京都文京区小石川/春日で弁護士をしています。
個人の方向けの注力分野は、「男女問題・離婚・相続・労働問題」です。親切・丁寧・迅速・そして圧倒的な成果の獲得に自信があります。オンラインで全国各地のご対応可能です。

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